shamrock 2 フラー・キョールT− コンペティション&コンサート <8月28-29日>



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行程 : クロンメル(各種コンペティションおよびコンサート見学の巻)

 フラー・キョール本番*。まずはフラー・キョールの目標であり主役であるコンペティションと、各種ギグ&セッションの様子から・・・

あ、その前に、この日宿で朝食を食べながら、アイルランドの選手の馬術(飛越)優勝を知った。金メダルを取ったアイリッシュがインタビューを受けながら泣いており、それを一緒に台所のテレビで見ていたイギリス人旅行者のおばさんがもらい泣きをしていた。僕はさらにそのおばさんを見てもらい泣きしそうになった。連鎖反応。

28日、12歳以下によるセットダンスのコンペ
 フラー・キョールの楽しみ方は人によって異なると思われる。オフィスが出しているプログラムも買わずコンペティションも行かず、町のパブや道ばたでセッションを楽しむという人もいるだろうし、同じ宿に泊まっているイギリス婦人のようにフラーは1日だけ雰囲気を楽しんで、残りはキャシェル(Cashel)で要塞を見たりウォーターフォードでクリスタル工房を見るのもいいだろう。ただフラー初心者の僕としては、色んなコンペティションをつまみ食いしたかったので、プログラムを6ユーロで買い、全イベント通しチケットを32ユーロ(会員価格)で買い、地図を片手にあちこちの会場**を回ることを選択した。

 ただしこの方法には一つ大きな誤算があった。まずプログラムに載っている地図は結構いい加減で、会場の場所が記されてなかったり違う名前になっていたりする。また、場所が判らないからといって周りの人に道を聞いてはいけない。彼らはたいてい親切に答えてくれるが、2人に1人は誤った情報を教える。それも意地悪ではなく親切心からくる行為なので、余計辛いところだ。正しい場所に関する情報を得る一番良い方法は、5人以上に道を聞いて多数決を採ることか、フラーオフィスに行って訪ねるかだ。が、たまにフラーオフィスの受付の方も確信を持って間違えるので、もうそうなると手が付けられない。

 またコンペティションをハシゴする際の時間配分も注意が必要だ。あるコンペティションは30分遅れでスタートし、もう一方は競技者が集まらず早く終わったりする。会場に一回でも行ったことがなければ、前述の通り30分くらいは彷徨う時間を換算しておいた方が良いだろう。またクロンメルの町はそう広くないが、それでも会場の端から端まで有に20分は歩くので、会場間のハシゴは結構難しい。僕も結局見たかった競技を4つくらい見逃して、ほとんど場当たり的に見る羽目になった。

28日、こちらは15歳以下のフルート
 それでも、見たかった子供たちのセットダンスコンペは見ることができた。軽やかに、当然のようにくるくる回っており、見ていて感心させられる。

 ケーリーバンドの楽器といえば、フィドル、コンサーティーナ、フルート、ホィッスル、パイプ、ピアノ、バンジョー、アコーディオン、バウロン、そしてあとドラムスといったところだと思うが、その全てが競技対象になっていた。他にもハープ、シャンノース、スローエアのフィドルやフルート、マンドリン、リルティングそして詩の朗読まで、あらゆるものの競技があった。試しにドラムスを覗いてみたが、演奏目録(ジグ、リール、マーチ一曲ずつなど)や演奏方法など、よく判らないところで色々基準があるようだった。でないとドラムスなんて優越を付けるのは難しいかも知れない。
 

28日、珍しいドラムスのコンペティション
 こういったコンペのルールや進行手段が、ともすると抑圧的で画一的と捕らえられ、「自由を愛する音楽家」の批評の対象になるのもなんとなくうなずけてしまう。ただ一方、フルートのコンペ終了後に審査員が2,3コメントした後、こう言って全体を締めていた。「みなさんもっとオリジナリティを持ちなさい。まねではなく、自分の演奏スタイルを作りなさい。」一見画一的で技巧主義的なコンペティションに見えるが、本当に求めているものはこのコメントに有るような気がした。

 ちなみにコンペの進行は仰々しいが、その順番や時間は、複数の楽器を掛け持ちしている人のおかげでかなりルーズにずれていった。29日のバンジョーなどは(朝イチだし)、どう考えても単に到着が遅れただけと思われる人もいた。この辺はアイルランド的で楽しいが、観客軽視という感も否めない。競技名が全部アイルランド語で、最後まで競技の意味が分からなかったものもあった。***

こちらは29日(日)、バンジョー大会

29日の18歳以上のフィドル。
大きな会場が満員だった

会場にはフラーをお祝いする
子供達の絵が貼ってある

29日、コンペのメインイベント
ケーリーバンドのコンペ

 ケーリーバンドのコンペは特設会場が満員になる
 ともかく色んな会場に足を運び、各所でその雰囲気を味わってきた。ケーリーダンス、バンジョー、ドラムスの他にもフィドル、フィドルのスローエア、フルート、ホィッスル等をハシゴした。会場により音の響きや周囲の雑音に差があったのが残念だったが、それはそれで町の競技会っぽくて良かったかも知れない。

 またコンペの、というかフラー・キョール最大の目玉はケーリーバンドのコンペティションであろう。この競技だけは他の競技との重複することなく、日曜の夜にドームを満員の客が埋め尽くす中で演奏できるのだから、バンド冥利に尽きる。演奏はマーチ、ホーンパイプ、ジグ、リールを一曲ずつ。さすがに楽器単体と違い迫力のある演奏が会場中に響き渡る。しばらく聴いていたかったが、となりの会場でケーリーが始まったため、優勝の瞬間を見ずに会場を去った。

 コンペティションばかりを見ようと思っても、会場から会場へと移動する間に、必ず数組のミュージシャンを見かけることができるのもフラーの特徴かも知れない。競技参加前に路上練習している人達もいれば、競技とは関係なく路上で演奏をしに来ている人達もいる。またギグと呼ばれるステージ演奏も2ヶ所で行われており、面白そうなダンスや音楽をやっているとつい足を止めて見入ってしまう。
 

至る所にいるパフォーマー
 勿論プロまたはセミプロが演奏するギグ・リグも上手だが、道ばたの若者は時にはっとするほど素晴らしいパフォーマンスをしていた。つくづくアイルランド音楽の裾野の広さを感じる。

ギグ・リグ。昼間は結構空いている

 パフォーマーに撮影用に道で演奏をさせていた。
ある意味”やらせ映像”

ギグ・リグ。真ん中で少女が踊っている
 
 こんな小さな子でも実に器用に演奏する
 もちろんパブでも至る所で演奏しており(Musician Welcomeという張り紙がはってある)、確かに無理してコンペティションに行かなくても十分堪能できるようになっている。

 ただ残念なことに、パブに行きたくなる時間帯はずっと踊っていたため、27日からの3日間ほとんどパブにも行かず、ギネスも飲まなかった。朝食で「昨日はどのパブに行ったの?」と聞かれ、「どこにも行っていない」と答えたら、山でパフィンに出会ったかのような驚きの表情をされた。どうやら、フラー=パブ(ギネス)という方程式の方がフラー=ケーリーよりも一般的のようだ。

* フラー・キョールはコンペティションやその他の各種イベントはウィークエンドの28日(土)、29日(日)に集中されるため、お祭りのメインイベントは2日間だが、フラー・キョールというイベント自体は22日(日)から開催されている。22日には開催記念ケーリーがあったり、27日までにかけて毎夜コンサートがあったり音楽やダンスのワークショップが開かれたりしている。また30日(月)にはフェアウェルパーティーも開かれる。そうは言ってもやっぱり盛り上がり的には週末であろうことから、ここでは28日と29日を「本番」と定義している。

** フラー・キョールは同時に何種類ものコンペティションが行われるため、あちらこちらの会場に分散されている。28日は20の会場で同時に最大19のコンペティションが行われていた。全会場をセッティングして、ボランティアを配置するだけでも大変な労力だろうとは思う。フラー・キョールの開催地選びには、会場数の多さも基準の一つになっているかも知れない。

*** 例えばAmhrain = アイルランド語の詩(うた)という競技では、"Mna"の部と"Fir"の部がある。これ、Mnaが女性、Firが男性を意味するらしい。Man と Woman 、もしくは Male と Female の英語表現から最後まで男女逆だと思いこんでいたため、女性の歌を聴きたかったのに聴き逃してしまった。ようく考えると Father と Mother の関係に近いのだろう。それにしてもアイルランドの競技だからアイルランド語でしか表記しないみたいなナショナリズムは捨てて、英語の説明を付けて欲しいものである。
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